絶対主従関係。-俺様なアイツ-

「あら、新人さん?」

 不意にかかった声に顔を挙げると、そこには栗色の髪をショートなのにくるりと可愛らしく揺らす女の人。

キレイなその人は、まるで『お姉さん』みたいな雰囲気だった。


 見惚れかけていたけれど、質問されていたことに気づき、



「あ、はい!涼原愛子と申します!」


 最初が肝心だ。

今回は失敗せずに、ペコリと勢い欲頭を下げると、くすくすと笑いが聞こえてきた。


「わたしは、紅葉……仁科紅葉。
でも、このお屋敷では下の名前だけで呼ぶことになっているから、今後名字は口にしなくて平気ですよ?」

 鈴を転がしたように、という表現は彼女のためにあるのではないか。

そう思えるほど、可愛くて。


 それはそれは本当に素敵な笑顔だったのだけど、その言葉の意味を理解できない。

今までバイトをしてきたあたしとしては、むしろ苗字で呼び合うのに。


「……はあ…」

 納得できないけど、なんとなく了承した言葉を返しておいた。


 なんなの、この藤堂家って……。
いわゆる『人類、皆家族』ってヤツかしら?


 あたしの疑問が紅葉さんにも伝わってしまったのか、困ったように笑いかえしてくるだけだ。


「…ええっと、紅葉さんも住み込みですか?」

 間が持たず、ふと想いついた疑問。

けれど、一瞬笑顔が消えて目を見開き、眉を下げて苦笑いを浮かべる。


「……──ええ」