「や…ぁ…っ!」

 意識がハッキリとしたあたしは振り払おうとした。

でも、気づいたときにはすでに腰辺りをアイツに乗り上げられていた。


 叫ぼうとしてみても、その柔らかい唇に阻まれる。


 どうしていつも心の準備なしに、何かに巻き込まれてしまうんだろう?

悔しくて、涙も出なかった。


 とても長く感じたその唇同士が離れると、そこには勝ち誇ったようなアイツの笑顔。

ぺろりと舐めとるように舌を出し、切れ長の瞳をあたしに突き刺した。



「俺に逆らうつもり?」

 その言葉であたしにはお父さんの顔が横切る。

下唇をギリリと噛んで睨みあげていると、アイツはさっきまでとは違った笑い方をした。


「……―まあ、楽しみにしてるぜ?」


 楽しそうにもう一度近づけてきた顔。

やっぱり顔は背けてしまったけど、次に水っぽい感触がしたのは鎖骨のあたりだった。


 一瞬チクリと痛みが走ったけれど、それだけだった。


 放心状態のあたしを横目に、無言のままアイツは立ち去った。


「う…嘘よね……?」

 信じたくないことばかりだ。




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