絶対主従関係。-俺様なアイツ-

 家庭科室は各模擬店クラスの仕込み場となっているため、あたしは仕方なく、洗剤を片手に理科室へいくことを余儀なくされた。

 もちろん背後には、仏頂面のアイツもついてくるわけで。


「うう……」

 ちくたく、と秒針が進む音と水の流れる音が妙なプレッシャーを与え、己の腑甲斐なさを語るようだ。


 幸いなことに、冷たい水でどんんどん流されていく汚れもあと少しなのだけど、その少しが厄介なのだ。

焦りが時間を奪い、横目に時計を確認して落ち込む一方だった。


 これじゃあ、小町がやる有志の出し物みれないよ。

やるせない気持ちを溜息と一緒に吐き出す。


「あのなぁ!こっちだって、好きでここにいるんじゃねぇよ!」

 あたしのため息を、アイツは少し勘違いしている。


「そもそもお前がシャツを汚すからだろうが」

 チラリと背後を振り返れば、あたしの手によって洗われているシャツの持ち主が、不機嫌そうに長い足を組んでいた。


 シャツを着れていないから、上半身は半袖一枚。

筋肉質なその二の腕はすらりとのびて、襟からのぞく鎖骨はくっきりと。

ほんの少し陰ったこの理科室の木漏れ日は、通った鼻筋に影を作り、アイツのためだけにあるみたく妖艶に魅せる。


思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。


「こっちも忙しいんだから、早く済ませろよ」

「……わ、わかってるわよ!あたしだって……」


 見とれかけたの半分、いつもの売り言葉に買い言葉で言い返そうとした。

でも、言ったって意味ない。


アイツに、理解してもらえるわけがないのだ。