絶対主従関係。-俺様なアイツ-

「帝、愛子ちゃん送りにきたよ」

 わざわざ禅くんが報告してくれている。

いや、今なら別にそんなことは必要ないんだけど…。


 そんな禅くんの言葉にかぶせるように、ミカドはちらりとあたしを見てきた。


「あーっそ。なら仕事しろよ、使・用・人!」

 その嫌味ったらしい言い方に、カチンと来るのをぐっと堪える。


「……わ、わかってるわよ!」

 拳をぎゅっと握り気持ちを落ち着け、あたしはほっぺを膨らませて階段をむんずと上った。


 階段途中の禅くんに並ぶと、こっそり顔を覗き込んだ。


「今日はありがとう、禅くん。そういうわけなので──」

 これでさよならだ。

……なのに。


「んー、だからさ。じーちゃんがここの執事なわけ。だから……」


 禅くんは右手をそっと胸に添え、左腕を後ろ手に腰を折り曲げた。

しなやかなその動作に、あたしは冷や汗を感じる。


「僕も使用人の一人なんだよね」


 な、なんですってぇーっ!?

驚きのあまり声も出ず、まじまじと禅くんを見詰めてしまった。


 階段の上からは、ミカドの呆れた声。

「禅、そろそろ従業員と張り合うのヤメておけよ」

「だって、僕のほうが有能でしょう?」

「……しらねーよ」

 微かに感じるトゲ。

そういうことか──と、あたしは少しずつ納得していった。


 禅くんからの『ライバル宣言』の意味。


「ね、愛子ちゃん。専属、やめてくれない?」



 ミカドに仕える使用人としての、ライバルだったのだ。

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