俺は周囲を確認し、誰もこちらに注意を払っていない事を確認すると、路地から這い出た。

そして野良猫の様に目立たない暗がりを求めながら、店まで戻った――



「ん…?」

高鳴る胸の鼓動を抑えながら店の鍵を開けようとした時、ドアノブに白いビニール袋がぶら下がっている事に気が付いた。

しかし今の俺には、そんなビニール袋の中身が何であろうと全く興味がない物だ。

俺は構わず鍵を開け、そのビニール袋を持って作業場に直行した。



ビニール袋を床に放り投げ、シャツの胸ポケットから慎重にハンカチに包んだ指を取り出した。

その瞬間――


作業台の上に広げたハンカチの上を見詰めた俺の目に、自分の意思とは無関係に涙が溢れてきた。

それは、そこにある指が前回持ち帰った指とは全く異なり、生命力に満ち溢れ、今にも動き出しそうな躍動感に溢れていたからだった。


「ああ……」

やっとの思いで絞り出した声は、嗚咽にも似た感嘆の言葉だけだった。


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