その日──
ついに俺は、ただ指輪を眺めている生活に我慢が出来なくなり、表通りでキャッチセールスを始めた。
俺の指輪を嵌めてもらいたいんだ。
もう我慢できない!!
店を出て階段を上がり、歩道に立つと周囲を見渡す。それから30分後、ようやく理想に近い指を見付け声を掛けた。
待っているだけでは駄目だ。こちらから積極的にアプローチしなければ、あの指輪達の神々しい姿を世間に披露出来ない。
「少し良いですか。
そこでジュエリーショップをしているんですが、少しで良いので見て頂けませんか?」
「あ、今忙しいので・・・」
「すいません。5分で良いので、私の作った指輪を見て頂けませんか?」
「いえ、結構です」
しかしいくら声を掛けようとも、誰も店に来てくれる女性はいなかった。それどころか、足を止めて話しを聞いてくれる人すらいなかった。
この状況に、俺の心に怒りが膨れ上がる。
忙しい?
俺の指輪を嵌める事が、どんなに素晴らしい事か分かっているのか!!
結構です?
お前は人生において記念とすべき日を、その言葉で失ったのだぞ!!