「ありがとうございました」

草壁さんは俺の作った指輪を買い、右手の薬指に嵌めたまま店を出て行った。


その後ろ姿を見送っていると、無意識に笑みが溢れ出す。もし草壁さんが引き返してくれば、二度とこの店に足を踏み入れる事がない程の笑みを・・・

いや、他の客が入って来て俺を見ても、直ぐに店を出て行くだろう。それ程に、顔中の筋肉を緩めて笑っている今の俺は、快楽に溺れる変質者に成り下がっているに違いない。

嬉しくてたまらない。
俺の傑作が、俺の惚れ込んだ指に嵌まっている事は、何にも代え難い興奮をもたらす。

今まで経験した事のない快感と、それを何度も味わいたいという欲望が全身を駆け巡っていく──


「指輪だ・・・
もっと指輪を作ろう。もっと素晴らしい指輪を作り出さなければ!!

もっと最高の、心の底から震える様な作品を作らなければ・・・もっと、もっと、もっと!!
この机の上に並べ、今日の様な運命的な出会いが訪れる事を祈ろう」


俺は店を開けたまま作業場に入り、興奮冷めやらぬまま再び指輪を作り始めた。