店主はケースを俺に手渡すと、撫でる様に白い顎鬚に手をやった。

「そのケースを売りに来た人から、話を聞いたんですよ。その人は、実際にその目で見たと言っていました。

中に5つの指輪が整然と並んでいて、ケースの内側に古代ヘブライ文字でこう記されていたそうですよ。

──力の代償に失う──

いずれにしても、それは売れる事はなく、だからといって捨てる訳にもいかず、仕方なく置いてある物なのですよ。

気に入ったのなら代金は良いから、あなたに差し上げますよ」


何とも気味が悪いエピソードだが、基本的に俺はオカルト話は信じない。店に置いておけば、客相手にちょっとした話題にもなるだろう。

「じゃあ、遠慮なく頂いて行く事にします。
でもタダだと申し訳ないので、気持ちだけ置いて行きますよ」

俺はポケットから財布を取り出し、千円札を店主に渡す。店主はそれを受け取ると、包装もせずケースを差し出した。


「その中にある指輪は、″サタン・リング″と呼ばれているらしいですよ」