「耳切り事件か・・・」

俺は草壁さんの背中を見送った後、つい先ほど見せられた男を思い出していた。


草壁さんが出て行ってから1時間――
相変わらず来店客は無く、俺はカウンターに肘をついて、自分が作った指輪を眺めていた。

この出来映えならば、来店さえしてくれれば売れる自信があるのに・・・

「おお、そうだ!!」

俺はレジを乗せている棚の引き出しを開け、顧客名簿を取り出した。この顧客名簿には、今まで購入してくれた人の指輪のサイズが記載してある。


「広田、広田と・・・ああ、8号なのか」

俺は昨日作った指輪を1つだけショーケースから取り出し、指輪のサイズを調整し始める。


広田 香織──
この店の上階にあるブティックで、店長をしている若い女性だ。以前付き合いで、指輪を買ってくれた事がある。

彼女に指輪をプレゼントして、ブティックに来た客に宣伝してもらおうと考えたのだ。