百合は持ってきた定食屋の日替り弁当を俺に手渡し、自分も弁当を開け笑みを浮かべながら箸を割る。そして玉子焼きを一口食べると、また指輪に顔を近付けて眺めた。
「それにしても、どうして突然こんなに凄い物が作れる様になったの?」
「ん?・・・ああ」
百合にサタン・リングの事を話しても、多分信じずに笑い飛ばすに違いない。余りにもリアリティが無い。
いや・・・何より、サタン・リングの存在を百合に話したくはない。
「――か、肩の力を抜いて、集中して作ったんだよ」
「ふうん、そっかあ・・・」
百合は弁当を食べ終わると、カウンターとして使用しているショーケースの一番目立つ場所に指輪を並べた。そして指輪を眺めながら、満足そうな表情をして帰っていった。
突然才能が開花したという説明を、百合は信じ切っている様子だった。
百合が店を出た後、直ぐに鍵を締めると作業場に戻って指輪作りを再開した──



