時間を忘れて作業に没頭したいた俺は、手を止めて作業台の上を見る。眼前には5個の指輪が並んでいる。

どれもこれも満足のいく出来上がりで、それらを眺めながら快感に震える。

美しい!!
もっともっと、指輪を作りたい!!


その時、不意に店の方から女性の声がした。

「敏樹・・・敏樹、いないの?」

百合だ。
百合はいくら付き合っているとはいえ、俺の作業場に入って来る事はない。

作業場はデザイナーや職人にとって神聖な領域であり、他人が勝手に入って良い場所ではない。その事を百合はよく理解している。


そういえば、仕事が終わったら何か食べる物を持って来ると言っていたな。

「作業場にいるぞ!!直ぐに行く」

俺は作業台に並べていた指輪を飾り台に乗せ、それを持って店の方に移動した。


作業台から出て来た俺を見て、百合が不思議そうに後ろを向く。

「扉の札がCLOSEのままだけど、お店開けなかったの?いるんなら開けとけば良いのに・・・」