その時――


俯いていた草壁さんが、ゆっくりと顔を上げ、俺を見据えた。

しかしその表情は、本来の草壁さんとは全く別人だった。


今にも飛び出そうな眼球は死んだ魚の様に白眼で、額は今にも脳味噌が弾けそうにな程盛り上がりっていた。

更に、耳元まで裂けた口は妖しげな笑みを浮かべ、俺に顔を近付けてきた。


その人間とは思えない形相に、流石の俺も一歩二歩と後退りした。

「な、何なんだお前は!!」

俺が叫び声を上げると、草壁さんの中にいる何かは、またしゃがれた声で応えた。


「悪魔さ」

「悪魔……?
悪魔などが、この俺に一体何の用があると言うんだ!!」

「悪魔など?

これはこれは…
何ともヒドイ挨拶だな。今まで散々、力を貸してやったと言うのに」


俺の思考は混乱し、一体何が目の前で起きているのか、全く分からなくなっていた。


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