しかし俺はこの時、重大なミスを犯していた。
そう――
余りの興奮と難しい状況に、耳を切り取る事を忘れていたのだ。
それは、聞き込みに来店した草壁さんから話を聞いた時に気付いた。
「こんにちは」
「あ、草壁さんいらっしゃい。今日も聞き込みですか?」
俺は昼過ぎに来店した草壁さんに、穏やかな笑顔で応対した。
「はい。
全く犯人の情報はありませんし、それに…」
「それに?」
「昨夜の事件は、耳を切り取らず、手だけを持ち去っているんです。
ひょっとして、高山さんの言う様に犯人は2人いるという事なのでしょうか…
意見を聞こうにも、肝心の高山さんは外出したきり帰ってきませんし」
俺の額に一気に汗が噴き出してきて、タラタラと頬を流れた。
耳を切り取っていない!?
確かに、どうやってあの雑踏の中で誰にも気付かれずに左手を持ち帰るかだけを考え、耳を切る事は忘れていた!!
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