「ごめん、ちょっと急いでるから」
俺は絡み付く腕からスルリと自分の腕を抜くと、呼び込みをしていた女に背を向けた。
俺は暗色のマニキュアが嫌いだった。黒い爪は手全体のイメージを悪化させ、折角の指輪さえも見栄えが悪くなるからだ。
今の女は爪が黒いというだけで、俺にとっては有り得なかった。
再び通りを歩き始めた俺に、やはり次々と呼び込みの女が声を掛けてきた。
しかし――
派手な服装やメイクで目を惹き付ける女も、肝心の手を見ると納得がいくフォルムでは無かった。
やはり、理想的な手の持ち主など、そう簡単に見付かるものではないのだろう。
そう思い始めた時、不意にピンクのエプロン姿の女が目の前に飛び出して来た!!
「うわっ」
俺は驚いて、思わずみっともない様な声を上げてしまった。
「あ、すいません」
何だこの店は…花屋か?
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