「うん、もう行かないと。また仕事が終わったら、何か食べ物持って来るね」

百合は取引先の訪問や、販売企画の仕事でかなり多忙だ。時々近くまで来たついでに、こうして顔を出す事がある。


「あ、百合――」

扉を開けて出て行こうとする百合の背中に声を掛け、この指輪の話をしようとしたが止めた。

「なに?」

「いや、何でもない・・・じゃあ、何か美味い物頼むな」

「分かった」

百合が出て行き、扉がゆっくりと閉まった。


なぜ指輪の事を話さなかったのだろうか?

いや──
話さなかったというよりは、話そうとした瞬間、何か強い力に無理矢理抑え込まれたかの様な・・・

一体どういう事だ?


俺は机の上に置いていた、あの抜き取った銀の指輪を見た。これ・・・なのか?

しかし、やはりどう見てもただの銀の指輪にしか見えない。


「自分の指に嵌めてみるか・・・」