口から、言葉ではなく心臓の鼓動が聞こえるのではないかという程に、頭の先まで心音が響く。

広田さんの左手から、目を離す事が出来ない!!


ああ、今すぐオノを持ってきて、この真っ白い床の上に寝かせて切断したい。

無意識に俺の手が、広田さんの左手に伸びていく――



「は、葉山さん?」

広田さんが少し戸惑い、慌てて手を引っ込めた。俺は我に返り、その場を必死に取り繕った。

「あ、いや…
御礼できる事と言えば指輪を作る事くらいだから、どんな指輪が似合うのか見ようと思って…」


「もお…
そうならそうと、先に言って下さいよ。
一瞬、愛の告白かと思って身構えたじゃないですか」

「ご、ごめんなさい」

いや、愛の告白は間違いではない。ただ広田さんに対してではなく、広田さんの左手にだが…


俺はそれから5分程軽口を叩いた後で、自分の店へと戻った。

早く広田さんの元を離れないと、自分の欲望を抑える自信が無かったのだ。


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