「いらっしゃいませ」
低く掠れた老人の声が、薄暗い店内に染み込む様に溶けていく。

何故この店に足を踏み入れたのだろうか?
古い物などに興味は無いのに・・・


カビの臭いがする安いワンルームマンション程の狭い店内に、アンティークらしき物が雑然と置かれた骨董屋。

とりあえず挨拶だけはしたものの、客であるはずの俺に、店主は全く興味を示さない。一番奥の窓際に座り、目を瞑っている。

店主の座る木製の椅子が時折軋む以外は、全く音がしない静寂に包まれた空間。フローリングと言えば聞こえが良いが、この店の床と壁は単に造りが古いとしか感じられない。


店内の品々を見渡すが特に逸品がある訳でもなく、扉の前から一歩も動かないまま店を踵を返す。

そうだ──
俺にこの店に入る用事など、最初から全く無かったのだ。

ただ何となく、誰かに呼ばれた様な気がしただけ・・・気付いた時には扉を開いていたのだ。