職場の窓から見える桜は、花びらが散り、葉桜に変わろうとしていた。

自分の体験した先生との恋愛を「カテキョ。」なんてタイトルで携帯小説に書いて、毎日閲覧数が増えて行くのが、最近のちょっとした楽しみだった。


「桜が散ってしまったねぇ。」

ベッドで治療していた85歳のミヤガワさんに言われ、自分が携帯小説のことばかり考えて、集中出来ていなかったことにちょっと反省した。

「そうですね。」

現実に戻り、あたしが外を見ながら答えると、ミヤガワさんがニヤリと笑いながら

「今年も、佐藤ちゃんは花見の時に、本当に花より団子だったねぇ。」

「だって、あの行楽弁当、おいしかったでしょ。」

あたしがそう言って、拗ねたふりをすると、
「そんなことだから彼氏には逃げられるし、婚期を逃すんだよ。」


ミヤガワさんは、施設内行事であたしが同行した花見のことを思い出したように笑いながら言った。

 
就職して2年で職場内の異動によってあたしは病院から、病院の隣にある老人保健施設のリハビリ科へ配属された。


25歳、臨床経験も5年目となり、後輩も多くなってきた。

なりたいと希望もしていないのに、職場ではいつの間にか中堅の立場となりつつあって、この春からは3階フロアのリーダーに任命されていた。