笑顔の裏側に

そしてその日はやって来た。

午前中は家事をこなし、午後に向けて少し早めの昼食をとる。

必要最低限のものだけを入れたバックを肩に掛け、家を出た。

駅に向かう間もずっとだんまりだった。

電車に乗り、空いている座席に腰を下ろす。

「悠‥。」

小さく呼びかけてみても反応がない。

手を握れば、ギュッと握り返される。

「次降りるぞ。」

そう言われて、車内の電光掲示板を見れば、今度は私が強く握り返してしまう。

それに気づいているはずなのに、悠は何も言わずにその手を引いて電車を降りた。

改札を出て歩いていくうちに電車の中で過ぎった予感はますます的中の方向に傾いていく。

足取りはどんどん重くなり、速度も落ちてついには立ち止まった。

引っ張られた腕により、悠も立ち止まる。

少し前の背中に告げた。

「ごめん。私、やっぱり帰る。」

踵を返して来た道を戻ろうとする。

だけどそれは叶わなかった。

がっちりと腕を掴まれ、振りほどけない。

「離して！」

「逃げるな！」

怒鳴り声に思わず体が固まった。

「自分の本心から目を逸らすな。」

真剣な声で先ほどと同じような言葉を言われる。