☆北斗side☆
美空は、覚えていないらしい。
俺は今でも忘れずに覚えているというのに。
美空はどうやら、少しアホのようだ。
…教え甲斐が、ありそうだ。
あれは美空が引っ越す10年前のある日。
美空が1冊の漫画を持って、夕焼け公園にやってきた。
『きーくん、見て見て。
この人、かっこ良くない?』
美空が満面の笑みで見せてくれたコマには、ワイシャツの襟につくぐらい少し長めの茶色い髪が特徴の男キャラ。
丁度喋っているシーンだが、その口調は少し変わっていた。
<おたく、まことに好きなんスか?おれのこと。
そしてなにゆえ、今言いだしたんスか?>
…おたく?
…まこと?
…なにゆえ?
…ス?
よくわからない言葉が飛び交っていた。
『…何?これ』
『ママに聞いたらね、おたくはお前って意味で、まことが本当って意味で、なにゆえが何でって意味なんだって。
っスっていうのは、語尾につく言葉みたいだよ』
『…今じゃ全然聞かない言葉ばかりだね』