オレは彼女と過ごした日のことを、全てキクに教えた。
そして美空が呼ぶ“きーくん”と言うあだ名も、キクのあだ名にした。
キクトだから、違和感なんて存在しない。
それにもしドラマのように、数年経って彼女が現れたとしても。
如月という名字から“きーくん”と名付けたなど思わないだろうから。
下の名前が菊人というキクを“きーくん”と呼んでいたという方がしっくりくるだろう。
彼女が俺たちの前に現れたとしても、大丈夫だ、心配ない。
そして10年後。
西川美空―――彼女が、転校してきた。
10年前とはやっぱり、見た目が全く違う。
だから俺が本当の“きーくん”だと知らないで、菊人の名を持つキクを“きーくん”だと信じた。
両親の死は、やっぱり事故死だった。
今ならキクの父さんに調べてもらわなくてもわかることだ。
だけど10年前は必死で。
まさか10年後、過去を上げたことで後悔するなんて思っても見なかった。
普通は想像しないだろう。
キクの刑事だった父さんが、警察を辞めて新しく会社を立ち上げて成功するなんて。
そこで出会った須藤を、キクが好きになるなんて。
俺は何で、キクに過去なんてあげたのだろうか?
結果なんてわかりきっていた、条件を飲んで。
“きーくん”をキクだと信じ続ける初恋の彼女を、傷つけてまで。
俺が彼女―――美空と過ごした10年前の日々を
失ってまで、
過去をあげる必要などあったのだろうか…?


