翼に ―大切な敵―




笑顔であたしの手を握る祈織。


「あ、着いたよ。ここ」




あー全く道を見てなかった。

どこからどう来たか分かんなければ次も一人で来れないじゃない。


あたし、阿呆すぎる。



「ありがとう祈織」




「うん、じゃあね」




祈織が帰っていくのを見届けてから、理事長室のドアと向き合う。


服装を整えて



コンコン


「どうぞ」



懐かしい声が返された。



ガチャ



「失礼致します」



入って一礼する。


普通の挨拶とは思えないでしょ?


本当は頭ずっと下げててもいいくらいなの。



「礼儀正しいね、奏さんは。お父さんにそっくりだ」



「ありがとうございます」




あたしの父は幼い頃に亡くなった。


そして、母も。


一人きりになったあたしに、学校のお金などをお世話してもらった方。



お父さんとお母さんの、高校の時の担任の先生。