「ただいま」



凹んでいても習慣とは恐ろしいもので「ただいま」という声は普通に出てくる。



でもいつもの「おかえり」の声がしない。



それに何となく様子がおかしい気がした。



「どうかしたの?」



物音がした和室に入る。

そこにはお母さんがいたけど、やっぱり様子がおかしい。

落ち着きなく和箪笥を開け閉めしている。



「どうかしたの?」



もう一度聞くと私の声に振り向いたお母さんの顔は引きつっていて、目の周りが赤かった。



「ちょっと、大丈夫?具合が悪いの?」



「お母さんは大丈夫よ。それより…」



「え?」



突然泣き出したお母さんを見てただ事ではないと思った。



『お母さんは』と言った言葉も気になった。



だからお母さんが泣き止むまで側にいて、そしてお母さんがポツリポツリと話す言葉に耳を傾けた。



「ウソ…」




「こんなウソ…つかないわよ…」