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暗闇で何も見えない状況の中、私は誰だか知らない人の腕の中にいる。
恐怖で身体が固まってしまう。
でも次第に落ち着くその腕の中を私は知っている。
「光…」
間違いない。
間違えるはずがない。
光と行動を共にしなくなってから2年半が経つけど、好きな人のことはそんな簡単に忘れられない。
「光、だよね?」
そう聞いても暗闇で何も見えない状態では手話が意味を成さない。
だから手探りで手を上に伸ばし、頬に触れてからもう一度「光でしょ?」と聞くと、顔がコクっと縦に頷いた。
「ライトを持って来てくれたの?」
小さなヒカリと音楽の効果で蛍に見えたけど、よくよく考えてみればあれは人工的なヒカリだ。
だからそう聞いたのに光はブンブンと首を横に振る。
「違うの?それならどうしてここに来たの?私の手話を見たから?」
コクっと縦に頷く光は顔に当てていた私の手を取り、そのまま手を握り返してきた。
その温かさに覚悟を決める。
「光。私、光が好きだよ。でもね、いいの。両想いになれなくても。光は好きな人の元に行っていいの。光の幸せが私の幸せだから。大丈夫。私はちゃんと生きていられる。いなくなったり絶対にしないよ」
手話で伝えようとしていたことを言葉に出すのは結構辛い。
暗闇で良かった。
ヒカリが当たっていたら涙が見えてしまい、光に心配かけちゃったかもしれないから。
「光。今まで…」
側にいてくれてありがとう、って言おうとした時、光に思いっきり抱きしめられた。
「く、苦しいよ。光」
こんな風に抱きしめられたりしたら2年半掛けた決心が鈍ってしまう。
だからこそなんとか離れようともがく。
すると光は片手で私を抱き締めたまま私の顔の横で掌を広げ、小さなヒカリを灯した。
「なに?」
「求愛」
「……え?」
低く柔らかい声。
でもその声の主を私は知らない。
それなのに耳に残るその声は次第に全身に広がり、身体が驚きと喜びで震えた。


