「私、医者になるよ」


心の傷を癒せるような医者になる。


光のように、光のお姉ちゃんのように心に苦しみを抱えた人を助けたい。


温かさを持って。


愛情を持って。


「まさか医学部に受かるとは」



「先生のおかげです。ありがとうございます」



あんなに嫌いな英語だったけど、必死に食らいついていたら先生の授業が意外にも面白い事に気が付いた。


思えば変な賭け事もあったし。


でもあのおかげで勉強頑張れたし、先生に心が揺れ掛けた自分の軌道を修正する事も出来た。



「先生は私にとって最高の教師でした」



「今頃口説いても遅い」



「彼女いないくせに」



「うるせーよ」



「フフ」



こんな風に言い合える先生に出会えて本当に良かった。



大切なものを教えてもらった。



「青柳蛍」



「はい」



卒業式さながらの固い声に姿勢を正し、応える。



すると先生は目を細め、柔らかく微笑んだ。



「お前は蛍の光が熱を持たない事を知ってるか?」



「知ってますよ。伊達に”蛍”を名乗っていませんから」



「でも温かく見えるんだよな。その理由は?」



なんで温かく見えるか?

なんでだろう?

考えたこともなかった。



「なんでですか?」



「求愛行動だから。もう忘れたのか。教えてやっただろう?愛は温かいって。いいか。蛍を名乗るならこれ覚えておけよ。俺から蛍への餞の言葉だ」