「おはよう。青柳」
教室の一番後ろに立ち『卒業おめでとう』と大きく書かれた黒板を眺めていると、前の扉から担任が姿を現した。
「おはようございます。新山先生」
今日はさすがに白衣は着ていない。
ビシッとしたスーツ姿が様になっている。
教師になって初めて送り出す生徒だ、って言っていた。
感慨深いのかもしれない。
いつにない先生の真面目な姿に思わず頬が緩む。
「早いな」
「先生こそ」
「きっとお前は早く来るだろうと思って」
ほんと、先生には敵わない。
私の事なんてお見通し。
初めからずっと。
不思議だった。
どうして先生には分かってしまうのか。
顔に出やすい、なんて言われた事もあったけど、あれは違うよね。
先生は私を見ていてくれたんだもんね。
ずっと…
「先生」
「ん?」
「ありがとうございました」
姿勢を正し、ゆっくり頭を下げてから上げると、先生は驚いた顔をしていた。
「なんだよ、改まって」
「先生に出会えて良かったです」
先生に出会えていなかったら今の私はいない。
あの日。
1年の学祭の最終日。
あれが私のターニングポイント。
先生は私に前を向く力をくれた。