「長岡。水城、おかしくね?」
学祭が終わり、期末試験が始まった頃、席で自習している所に山田が近付き、話し掛けてきた。
「何を話しても無反応だし、筆談もほとんどしないんだよな」
今も水城の方を向いてみれば、ぼーっと教科書の表紙を眺めている。
「学祭の時、何かあったのかな」
山田が言うように水城は学祭の最終日から様子がおかしい。
あの放心状態だって普通じゃなかった。
でも何を言っても、何を聞いても答えてくれないんだ。
心配される事すら鬱陶しい。
そんな感じがひしひしと伝わってくる。
「そういえば最近、青柳さんと水城が一緒にいるの、見ないよな?」
「そうだな」
毎朝一緒に登校していたのに、ここ最近別々に行動している。
いつもどこからともなく聞こえてくる青柳さんが水城を「光」と呼ぶ声も聞こえない。
廊下ですれ違っても微妙に視線をずらしている。
手話もクラスメートの女子がしても首を振る事でしか返していない。
学祭の頃は手話を勉強してくれているクラスメートの存在をありがたいと感じていたようだったのに。
「あの2人、一緒にいないと違和感あるんだけどなー」
山田は青柳さんの事が好きなのに、変な事を言うもんだなと思ってフッと笑ってしまった。
でもそれは俺も同感。
こうして水城と青柳さんが離れて初めて気が付いた。
俺は水城と一緒にいて、水城の隣で微笑んでる青柳さんが好きなんだって。