「はぁはぁ……」
こんなに息が切れるとは思ってもみなかった。
一心不乱に保健室目指して走ってきたけど、息が苦しい。
心拍数もかなり上がっているようで、自分の耳に心臓の音が聞こえる。
それらを落ち着かせるため、保健室の前で俺は2、3回深呼吸をする。
蛍に会うのに緊張するなんて初めてだ。
保健室の扉に掛ける手が震えている。
蛍に拒否されることを本能的に恐れているのだろうか。
姉ちゃんのようにならないための自己防衛かもしれない。
でも、行かないわけにはいかない。
このまま蛍とすれ違うなんて嫌だ。
俺は蛍とずっと一緒にいたいんだから。
フゥっと息を大きく吐き出す。
そして扉にもう一度しっかりと手を掛けた。
と、その時。
扉に付いている小窓越しに見えた光景。
それを目にした瞬間、俺の世界は完全に止まった。
開けっ放しにされていた保健室の窓から吹き込んだ風。
その風が図らずとも俺から離れようとする蛍の理由を教えてくれた。
新山先生…
ベッドを囲んでいるカーテンがふわりと浮いた瞬間見えた2人が抱き合う姿。
今はもう風が止んでカーテンが元の位置に戻った事で見えなくなってしまったけど、目にしたのは間違いじゃない。
ベッドに腰掛け、蛍を抱き締めていたのは新山先生だった。
てっきりライバルは長岡だと思っていたけど蛍は新山先生の事を好きになっていたんだ。
勉強に集中しないのだってクラスメートとの確執なんかじゃない。
新山先生と付き合ってもいいと思っていたから悩んでいた。
あの『バイバイ』は本当の『バイバイ』だったんだ……