「青木は"鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす"ってことわざを知ってるか?」



「いえ」



「口に出して言わないものの方が強く想っていることのたとえだ」



「蛍に掛けているんですか?」



「あぁ」



青柳蛍はまさに蛍そのものだ。



強い想いとその温かく柔らかい光で水城を照らし、この世界に留めさせた。



俺は入学式でこの1人の女の子を見て涙を流した。


この温かく強い光に。



水城の姉に教えてやりたかった。



こういう形の強い想いもあるんだよ、って。



「同情なんかそんな生易しい感情じゃねーんだ」



「それを分かっているならどうして蛍に好きだなんて言ったんですか?」



「光らないからだ」



「光らないから?」



「蛍が光るのはどうしてだか知っているか?」



「求愛…ですよね?」



「そうだ。でも青柳は光らない。いや、光れない。こいつは恋愛に破滅があると知ってしまったから」



「では水城くんに?」



「あいつも破滅を知っている。おそらく青柳以上に。でもその感情が姉弟で同じとは限らないし、それにも増す温かい愛情を知っているはずなんだ」



あいつに何度かアクションを起こしているのは光れ、と伝えるため。



お前が光らない限り、その恋は成就しない。



怖がってばかりいたら、恐れる通りになってしまう。



姉の二の舞になる。



そう伝えるためだった。



だから補習、威嚇、賭け、昨日の女子の一件を水城にあえて見せた。



そして水城はそのどれもに強い想いで挑んできた。



良い傾向だと思った。



姉の事を乗り越え、鳴くことも出来るんじゃないかとさえ思えるくらいに、強い想いを表したんだ。



ただ、どうしても想い人にだけ光ろうとしない。