蛍と光


その正体は結局分からぬまま1年が過ぎた。



その頃にはもう思い出す事はなくなっていたけど、受験後の職員会議中に出た『水城』という名字に心と頭が同時に反応した。



「首席入学の生徒です」



どこにでもある名字ではない。


でも姉弟揃って首席入学なんて有り得ない。



だから胸騒ぎはしつつも、水城の弟だとは思わなかった。



「ただこの学生、声が出せないんですよ」



え?




その瞬間蘇ったのはあの葬儀での参列者の声。



『ショックで声が出せなくなってしまったらしいわよ』




まさか本当に水城の弟なのか?



「新入生代表の挨拶はどうするんですか?」



俺の動揺する気持ちなどお構いなしに会議は進む。



「当人と中学校に連絡したら、一緒に入学してくる女子が通訳をするから、と言ってきたんです」



「通訳?」



「手話で挨拶をするとか…」