その数年後。
教員として働き始めて間もない頃、家に帰ると弟が暗い顔をして喪服を着ていた。
当然、喪服を着るんだから明るい顔をする訳がない。
でもその時の弟は明らかに様子がおかしかった。
「お前、ワイシャツのボタン掛け違えてるぞ?」
「…」
「大丈夫か?ネクタイも結えてないじゃないか。手も震えてるし。おい、一体誰の葬儀に行くんだよ?」
「水城の…」
「ん?」
「水城の葬儀に行って来る」
ミズキ?
ミズキって誰だ?
「水城が自殺した。俺が振った翌日に」
その言葉であのカッターナイフが頭の中で光った。
「本当か?その話し…」
コクリと頷いた弟はそのままそこに崩れてしまった。
「なんで俺なんか好きになったんだよ…っ」
「お前…」
まさか本当は好きだったのか?
その言葉は飲み込んだけど、よくよく思い出してみれば弟もまた水城の側にいつもいた。
それは生徒会長とか、副会長とかそういうことじゃなくて。
弟の視線の先にはいつも水城がいた。


