「なに…してんだ、お前」
「切ればきっと心配して戻ってきてくれる。私の元に戻ってきてくれる」
そんな訳ないだろ、って思ったけど、後日弟に聞いた話では実際にそういう事は何度かあったらしい。
男と付き合うのも弟にヤキモチを妬かせるためだ、とか。
でもそんな事を知らない俺は必死に水城を止めた。
「家族が心配するだろ」
「そうだね。でも私はそれよりアイツが欲しいの。アイツの彼女になりたいの」
「どうしてそこまで…お前ならもっといい男を見つけられる。彼氏だっているんだろう?」
「ダメなの!他の誰かじゃダメなの!本当に傍にいて欲しいのはアイツなのっ!アイツだけしか見えないのっ!」
何も言えなかった。
強い想いに負けて。
ただ怪しく光る水城のカッターナイフを手から取り上げる。
それだけしか出来なかった。


