数年前。
教員免許取得のために選んだ教育実習先は母校。
つまりこの高校だった。
その時、ちょうど弟が通っていたからどうしようか少しだけ悩んだ。
でも6年間もの成長を見届けなくてはいけない小学生より、思春期真っ只中で生意気になってくる中学生より、少しだけ大人びた高校生の教師になりたかった。
高校なら変に親が関与して来ないだろうし、生活指導だって小中学校とは比べものにならないほど楽になると思っていたから。
だから弟がいようがこの高校を選んだ。
そしてそこに水城の姉がいた。
弟とは生徒会長と副会長という関係で。
でも立場は完全に逆。
副会長の水城の尻に引かれる会長の弟。
俺が赴任した時にはすでにその構図が出来上がっていた。
生徒会室から響くのは
『しっかりしてよー』
『違うってば』
『馬鹿』と罵る声。
でもそれは水城なりの愛情表現で、弟がいる水城らしい、お姉さんなりの愛情だった。
そしてそれは弟にとっても居心地が良かった。