青年が突然一歩踏み出した。
そのまま躊躇うことなく少女の前まで
歩を進める。少女はキョトンとして
青年のことを見上げた。

「どういたしまして。   …………なぁ俺もさお前に言いたいことがあんだけど」

「なに?」

「俺、お前のことが好きだ。
今まで出会った女の中で1番」

「っ‼」

「だから、俺と付き合ってほしい。正式に」

青年は真剣な眼差しで少女を見詰めている。
少女がおずおずと口を開いた。

「はい、私でよかったら」

「本当か⁉」

「うん。私ね、ずっと待ってたんだよ?
あの日からずっと」

「悪い、もう1回頼む。よく聞こえなかった」

一際大きく吹いた風が
少女の言葉をかき消した。

「ううん。なんでもない」

「じゃあ、帰るか」

「うん」

青年は少女の肩にパーカを掛け、その手を
優しく握った。
それは、あの日から少女が忘れられずにいた温もりだった。


並んで歩く2つの背中を
月明かりが柔らかく照らしだす。
どこまでも、どこまでも。