「今日はどんな本読んでるのかな……」
ふと腕時計の時間が目に入る。
昇降口の階段に座って陸斗くんを待ち続けてから、1時間半が過ぎていた。
陸斗くんが図書室から出てくる時間は、日によって全然ちがう。
30分の日もあれば、2時間の日もある。
午後の授業が終わるのは3時過ぎ。
放課後の図書室の開放時間は、午後5時半まで。
どんなに遅くても午後5時半まで待てば、陸斗くんと一緒に帰ることができるなら。
あたしは何時間でも待ってる。
「ホントに本が好きだよね……ふふっ」
陸斗くんのことを想いながら、空に向かってひとりつぶやいて。
いつのまにか微笑んでる自分に気づく。
「また難しそうな本、読んでるのかなぁ……」
好きな人を待っている時間は、ドキドキしたり。
うれしくなったり。
すごく、すごく幸せに思える。
「あ、そうだ……」
あたしはカバンの中から、あるものを取り出した。
今朝、コンビニで買っておいたシャボン玉。
あたしは、空を見上げる。
夕暮れで、少しずつオレンジ色に染まってゆく空が、どこか切なさを感じさせた。
幼い頃のことを、なんとなく思い出しながら。
その空に向かって、あたしはシャボン玉を吹いた。
風に乗って高く高く。
飛んでいく。
透明のようで、虹色に見えるシャボン玉。
そのとき、
「なにやってんだ?」
背後からの聞き覚えのある声に、あたしは笑顔で振り向く。



![春、さくら、君を想うナミダ。[完]](https://www.no-ichigo.jp/img/issuedProduct/10560-750.jpg?t=1495684634)