三人で仲良く自転車を漕いで海を目指す。
海岸沿いの国道は既に大渋滞していて、車はノロノロ運転。国道と並行して走る市電の車内も、花火を観に行く人たちでぎゅうぎゅう詰めになっていて苦しそう。
こんな時、自転車でよかったと思う。
太陽の傾いてく方へと走るから眩しくて堪らないけれど、渋滞を気にせず自転車で駆け抜けるのは気持ちいい。
先頭を走るのがヨシ兄、次にコウちゃん、私は一番後ろ。コウちゃんは時々振り返って私に合わせてくれるけど、ヨシ兄だけ飛び抜けて速い。後ろを振り返ることもなく、マイペースで疾走する。
本当は私だって速く走ることができる。だけど勢いよくペダルを漕ぐと、ワンピースの裾が風をはらんで巻き上がりそう。
本当は友達と電車で行くつもりだったからワンピース、だけど着替えればよかった。
「涼子、ついて来れてる?」
コウちゃんが私の横に並んで走ってくれる。
相変わらずヨシ兄は振り返りもしない。前へ進むことしか知らないヨシ兄の背中が小さくなっていく。
『いっそ、はぐれて迷子になってしまえ』
心の中で邪悪な私がニヤリと笑った気がした。

