描きかけの星天


「そろそろ行く?」



ヨシ兄がカーテンの隙間から空を仰いだ。
あんなにも照りつけていた陽射しの勢いが少しだけ収まったような気がする。

そう言えば、うるさかった蝉の声も小さくなったような。



空き缶をくしゃっと握り潰して、ヨシ兄がリビングのドアへと向かっていく。
コウちゃんが立ち上がるなり、私を見下ろした。



「涼子も一緒に行こうよ」



私はもうすっかり花火大会に行く気を失くしていたのに、何を言い出すんだろう。



「いいよ、私はまだ宿題残ってるし」

「宿題なんて今日じゃなくてもいいだろ? まだ日があるし、俺が手伝ってやるよ」

「コウちゃんだって自分のことで忙しいじゃない、受験生なんだから……」

「それぐらい大丈夫だよ、気なんか遣うな、ヨシの代わりに俺が手伝ってやるから」



するとドアから体半分出てしまっていたヨシ兄が、上体だけ後ろに逸らして戻ってきた。ヨシ兄の視線は私ではなくコウちゃんへ。



「代わりってなんだよ、俺も教えてやってんだぞ、それにもう子供じゃないんだから放っておけよ」



相変わらず薄情者な兄だ。
勉強を教えてくれたことなんて滅多にないのに適当なことを言うんだから。