いつまで経っても、コウちゃんは二階へ上がろうとしない。
どうしてここに居るんだろう。
ヨシ兄を起こしに行けばいいのに、ヨシ兄の部屋は冷房が効いてるからこの部屋よりもずっと快適なのに。
蝉の声だけがしつこいほど聴こえてくる。
一定の間隔で首を振る扇風機の風が、髪を乱すたびに手で抑えて再び顔を伏せた。
ペンを握り直してノートを睨んでみたけれど、ちっとも手は動かないし頭だって働こうとはしてくれない。開いたノートをめくるどころか、何にも書くことができないまま。
うつらうつらと心地よい揺らぎに流されそうになった頃、ドンっと頭上から鈍い音が響いた。
驚いて見上げたら、コウちゃんが眠そうに目を擦ってる。
「ヨシめ、やっと起きたか」
と言いながら、両腕をうんと伸ばして大あくび。
そうしているうちに賑やかな音を立てて、ヨシ兄が階段を駆け下りてきた。
「コウ、来てたのか、待った?」
コウちゃんのあくびがうつったのか、ヨシ兄は大きなあくびをしながらリビングを素通りしてキッチンへ。

