「涼子はまだ宿題してんの? 行くんだろ? どこで観んの?」
「私、行かないよ」
少しムッとしたけど即答。
今日は年に一度の地元の花火大会。
一緒に行こうと約束していた友達から、電話があったのはお昼頃。お昼ごはんに母が作ってぬれた炒飯を食べていたところだった。
急用ができたから行けなくなったと電話の向こうで泣きそうな声で謝られたら、許さないわけにいかない。
それに今年だけじゃない。
毎年あるんだから、また来年行けばいい。
「ふぅん……、行かないんだ」
「コウちゃんは行くんでしょう? 早くヨシ兄起こさないと混むよ?」
「ああ……、そろそろ起こさないとなあ」
コウちゃんがリビングの壁に貼り付いた時計を見上げた。ずいぶん声のトーンが下がってるけど、私に同情してるのだろうか。私に合わせてテンション下げなくてもいいのに。
「部屋の冷房切ったらすぐに起きるよ、ヨシ兄は暑がりだから」
「そうか……」
コウちゃんの声をかき消そうとするように蝉の声が重なってくる。
何か言いたそうに口が動いたように見えたけど気のせいかな。首を傾げると、コウちゃんはきゅっと口を結んで目を逸らした。