「うん、初めてだね」



コウちゃんの柔らかな笑顔に見惚れているうちに、すっぽりと腕の中に引きこまれていた。



ぎゅうっと抱きしめられたけれど、私は訳が分からず。とりあえず両手の中にあるおにぎりを守ることしか考えられない。

いや、おにぎりのことだけを考えようとしているんだ。



「コウちゃん? おにぎり……」



不覚にも声が震えてしまう。
私が言いたいのは、こんなことじゃないはず。



だけど、何を言ったらいいのかわからなくなる。


「ちゃう、おにぎりじゃなくて、俺さ……」

「え? なに?」

「涼子、よく聞いて」



コウちゃんの腕は力強いくせに優しくて、感じられるのは暑さなんかよりも心地よい温もり。
まるで私の胸のざわめきを見通しているかのように、鎮めようとしてくれているかのように強く優しく。



私のずっと深いところに封じ込めていた扉を叩く。



聞きたくない、だって聞いてしまったら。



「涼子が、ずっと好きだった」



コウちゃんの声を追いかけて、閉じた瞼の裏側に眩い光。
ドンと大きな衝撃が体の芯に響いた。








【 完 】