描きかけの星天


「全然知らなかった、ヨシ兄に彼女が居るなんて」

「だろ? 学校でも上手く隠してるんだ、アイツらが付き合ってること知ってるのは俺と彼女の友達ぐらいじゃないかな」



ちらりとコウちゃんが振り返る。
私も後に続いて振り返ったけど、ヨシ兄の姿はもう見えない。



ヨシ兄の彼女が来る前に、私たちはマンションの駐車場を抜けて海へと向かった。

防波堤の上には既に陣取った人たちが、準備万端で花火が上がるのを待ちわびている。



「ココらにするか……」



ひと通り見回したコウちゃんは、ひょいと手を挙げて大きな体を軽々と防波堤の上へ。
私を置いて行くつもりか、と思うより早く振り返ったから少し安心。
だけど。



「ほら、掴まれ」



ぶっきらぼうな言い方で差し伸べた手をひらひらさせるけど、すぐに応えることなんてできない。

コウちゃんの手を掴んでしまえば済む状況じゃない。



「無理、私ワンピだし」



やっぱりワンピースなんて早く着替えてしまえばよかった。



コウちゃんが手を引っ張ってくれるとはいえ、こんな格好で防波堤をよじ登るなんて無理。
いくら私でも……