描きかけの星天


自転車を押しながら国道を逸れて海沿いのマンションへ。来客用駐輪場に自転車を停めて、ヨシ兄はエントランスへと歩き出す。



マンションの中に入らなくても、建物の横の駐車場を抜けて海側の防波堤に出ることはできる。不可解な行動をするヨシ兄を呼び止めずにはいられなかった。



「ヨシ兄、どこ行くの?」



私の呼びかけなんて完全無視。
インターホンを鳴らしたヨシ兄の背筋が伸び上がる。肩を僅かに左右に揺らして落ち着かない様子が明らかにおかしい。



「涼子、ヨシの彼女だ」



コウちゃんに耳元でささやかれて、ぞわりと体が震えた。



「ええっ?」



驚いて声を上げたら、ヨシ兄がきっと振り返る。

自転車で疾走している時の勝ち気だった顔が一変。きゅっと眉を寄せて頼りなさそうな顔に変わっている。



「コウ、余計なこと言うな」



手で追い払って照れ臭そうに逸らした目はロックされたドアの方へ。

ほんの数秒後、インターホンから聴こえてきたのは澄んだ女の人の声。高く弾んだ声にすかさずヨシ兄が向き直った。