描きかけの星天


「ヨシは相変わらず、だなあ……」



並んで走り始めて間もなく、コウちゃんが思い出したように笑った。



もうヨシ兄は、ずいぶん遠くに行ってしまった。
花火観覧の会場に近づくにつれて自転車も増えてきて、ヨシ兄は他の自転車の集団に紛れ込んでいる。



「ヨシ兄、後ろにコウちゃんがいると思って話しかけたら面白いのに」

「ホントだ、ヨシがどんな顔するのか見てみたくなってきた、しばらく観察してみようか?」

「うん、集団行動を乱すようなヨシ兄は痛い目に遭わせないと」



コウちゃんと二人、ヨシ兄の後ろ姿を観察しながら自転車を漕ぐ。ヨシ兄に離されないように速度を上げて、一定の間隔を保ちながら。



だけど、ヨシ兄はなかなか振り返ってくれない。



信号が黄色から赤に変わる寸前、ヨシ兄はサドルから腰を浮かせて立ち漕ぎの体勢へ。目いっぱいペダルを踏み込んで、全速力で渡りきってしまった。


そのまま勝手に行ってしまえばいいのに、くるっと機敏に振り返ったヨシ兄は勝ち誇った顔で手を掲げる。



勝負してた訳じゃないけど、やっぱりムカつく。前を横切っていく車列の合間に見え隠れする余裕の笑みに気づいてしまったら余計に。