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「最近どうよ?」

相変わらず馴れ馴れしい口をきくソイツに、私は思い切り笑ってピースをする。

「幸せ!」

その一言にそいつはふっと鼻で笑うと、そうかよと適当に返してくる。

たまに夢の中に会いにくるそいつは、日を増すごとに馴れ馴れしくなっていく。

私は別に構わないけど…。

漆黒の翼をはためかせて、いかにも悪ガキそうな顔でニヤッと笑うのは、信じがたいかもしれないけど悪魔さんだ。

初めて私の夢に悪魔さんが訪れたのは約7ヶ月前のこと。

初めて会ったのは今と変わらぬ、濃い紫色の怪しげなこの空間だった。

あの日、出会って間もない私に悪魔さんは、

『親友欲しいか?』

なんて呑気に尋ねてきた。

静葉ちゃんにイジメられてた私は、もちろんその質問に首を縦に振った。

親友が手に入る喜びに目を輝かせるも、その後の悪魔さんの発言によって気持ちはまた沈んだ。

『半年以内に親友になれなかったらお前もそいつも不幸なるけど?』

私の所為で、相手が不幸になるなんてと思った。

それから私は散々悩んだ。

親友は欲しかったけど、私のせいで相手が傷付くのはと、散々悩んだ。

けれど運命か偶然か、私と彼女…倉井美澄はある日出会った。

静葉ちゃんと一緒にいた転校生だったから、名前は覚えていたんだ。

それから私と美澄の距離はだんだんと縮まっていった。

初めは、親友になろうと必死になった。

けれど途中で気付いたんだ。

親友って、なろうと思ってなるものじゃないんだって。

そう思い気を緩めた。

けれど、どうしても人を頼りたくなって、でも頼れるのは美澄しかいなくて、一か八かで美澄にお願いをした。

美澄は快く受け入れてくれた。

私が泣いていたら、優しく声をかけてくれた。

その大げさすぎない優しさに、私は惹かれていった。

そうして悪魔さんと出会ってから半年後、美澄が事故に巻き込まれそうになった。

必死に美澄を追いかけて助けて、その時悪魔さんの台詞を思い出したんだ。

『お前もそいつも不幸になる』という悪魔さんの言葉を。

私が親友になりたい一心で美澄に近づいて、明日誤解を解けばいいなんて思っていたら、確かに私も彼女も不幸になっていた。

けれど私は、美澄には明日も笑っててほしくて、必死になって追いかけた。

いつの間にか、私達は親友になっていた。

「悪魔さん、なんもヒントくれなかったよね。」

最後だからと文句の1つを投げかけると、悪魔さんはムスッとした顔をした。

「当たり前。他人の不幸は蜜の味って言うしな。

別にこのはや美澄って奴が不幸になろうが俺には害ねえし。」

ニヤニヤと笑う悪魔さんは、根っからの悪ガキのようだ。

私はニコッと笑った後、最後に悪魔さんにハッキリ告げた。

「ありがとう。」

と。

悪魔さんは怪訝な顔をして立ち上がると、

「礼なら空っつー、天使の奴に言いな。

俺は頼まれたからやっただけ。

天使からの依頼は報酬が結構良いからな。」

そう言ってまたニヤリと怪しげに笑った。

悪魔さんのその見慣れた笑顔に、私は思わず吹き出して、

「そうだけど、ありがとう。」

とまたお礼の言葉を告げた。

たっぷりの感謝と、少しの皮肉を込めて言った言葉に、悪魔さんはふんっと鼻を鳴らすと、そのまま背を向けて去っていった。

ヒラリと紙が舞い落ちてくる。


『幸せにな』

あまり綺麗な字ではないけれど、珍しい悪魔さんからのお手紙をそっと胸に抱いて、私はまた微笑んだ。