梨乃ちゃんはちょっと申し訳なさそうな顔をしながら顔の前で手を合わせると、深々と頭を下げた。

「静葉のお見舞いに行ってあげてくれない?」

梨乃ちゃんの言葉に、私はん?と首を傾げた。

最近、例の話を聞いてから、あまり自分から静葉に話しかけれなかったというのに、いきなりお見舞いに行ってもいいのだろうか。

少なからず抵抗がある。

「いいのかな、私が行って。」

チラッと梨乃ちゃんとすぐ側にいた葵ちゃんを見て言う。

私が、2人が行った方がいいと思っているのを察してくれたのか、2人は一旦顔を見合わせて、それから言った。

「私らは用事があってね。

静葉って両親共働きだし、家にいても妹ばっかだし、それに、私らより美澄ちゃんが行った方が喜ぶだろうしね。」

ニコリとした梨乃ちゃんの笑みは、いつもの貼り付けられたような笑みで、どことなく寂しげだった。

それより、

「静葉ちゃん、妹さんいるんだね。」

静葉ちゃんに妹がいたということに驚いた。

私の一言に梨乃ちゃんはハッとして慌てた様子で私の口を抑えた。

「お願い、静葉の前で妹の話はしないであげて。」

必死に訴えかける梨乃ちゃんに息を呑んだ。

葵ちゃんも手を合わせてお願いしてくる。

2人の様子を見て、私は素直に頷いた。

それにしても、なんで静葉ちゃんは休んだのだろうという疑問が残ったが、家に行けば分かるだろうと気にしないでおいた。

2人と別れて早めに家に帰り、まずはこのはのメアドと携帯番号を登録し、一言メールを送っておく。

その後着替えて準備をした。

そして、お見舞いの品でも買って行こうと思い、コンビニに寄った。

スポドリとヨーグルトを購入してから、早歩きで静葉ちゃんの家に向かった。

インターホンを押すと、静葉ちゃんが誰と間違えたのかすぐに扉を開けてくれた。

インターホンを押したのが私だと気付いた静葉ちゃんは、すごく驚きながらもどこか嬉しそうに笑って私を迎え入れてくれた。

静葉ちゃんの家に来るのは2回目だけど、少し緊張する。

「今日は何で休んだの?」

静葉ちゃんの部屋に入ってからすぐに聞くと、

「ちょっとね、頭痛くて…。」

静葉ちゃんはえへへと笑いながらそう言った。

よく見ると静葉ちゃんは寝巻を着ていて、多分寝ていたのだろう、寝癖がついている。

「あ、そうだ、これ。」

ハッと思い出して、先ほどコンビニで買ってきたものを渡した。

それを受け取った静葉ちゃんは嬉しそうに微笑んでお礼を言った。

それから軽くお話をして、今日の授業の内容を軽く教えて、突如携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。

自分のメールの着信音だと気付いた私は、静葉ちゃんとの会話を一旦切ってメールを確認した。

大事な内容の場合もあるから、なるべく早く確認したかったのだ。

メールはこのはからだった。

内容は特に大したことなく、後で返信することにして携帯をしまった。

「誰から?」

興味津々に尋ねてくる静葉ちゃんに、

「このはから。」

サラリと答えて、ハッとした。

妹の話をしてはいけないってことしか覚えてなくて、すっかり忘れていたけれど、静葉ちゃんはこのはのこと大嫌いなんだから、このはの話もあまりしない方がいいはずなのに。

ついつい流されてサラッと答えてしまった。

恐る恐る静葉ちゃんを見ると、悲しそうな表情をしながら私の携帯を見ていた。

その瞳には、怒りも含まれていて、言うべきじゃなかったと自分の口を抑える。

気まずい空気が漂い始める室内。

私が静葉ちゃんの顔をそっと覗き込むと、静葉ちゃんはふふっと笑った。

「このはと仲良くなったの?」

いつも通りの笑みで聞いてくる静葉ちゃんに、

「うん、偶然階段の踊り場でぶつかって。」

と嘘をつかずに言った。

「そっか。

なら私、無理してでも学校行けばよかった。」

そう言い微笑んだ静葉ちゃんの瞳は、怒りと悲しみと、憎しみの色が混じり合った複雑な色をしていた。