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「…大変そうだね、美澄さんも。」

「まあ、ね。」

あの日、葵ちゃんと話した日からしばらく経って、天使様が夢に出てきたので一応現状を報告した。

転校して来て約2ヶ月目、早速詰んでしまって、どうするべきか首を傾げる。

天使様は答えに困った顔をして、少しの間考え込んでしまった。

「壁を作れば壁を作られる。

距離を取れば距離を取られる。

でもさ、私にはその壁を壊すことも距離を縮めることもできないし、その気もない。

だけど信頼を得ようとするのは、やっぱ単なるわがままなのかな。」

ハァっとため息をつくと、天使様もため息をついてから私を見た。

「なんでその気にならないの?」

天使様の質問に、思わず天使様を睨みつける。

…天使なんだから、なんでもお見通しのはずなのに、わざわざ聞いてくるあたり性格が悪い。

悪魔みたいな性格だ。

私はジッと睨んだ後、ふいっとそっぽを向いた。

歩み寄れば相手からも寄ってきてくれるなんて、ただの幻。

実際はある程度距離取って、嫌になれば見捨ててきて。

仲良いフリして陰で悪口言って、嫌だと思えばバレない程度に仲間はずれにして嘲笑う。

私は、そう学んだ。

菜摘や花梨から、そう学んだから。

だから、相手がどうであれ、ある程度距離を取っておく。

近寄って、距離を縮めようとしたら、最後に傷付くのは私なんだから。

「…でも、そう考えると、静葉ちゃんや梨乃ちゃんや葵ちゃんが、なんだか怖い。」

ふと呟く。

天使様は何も言わなかった。

「そうだね」とも、「そんなことない」とも、なんにも言わない。

ただただ私の顔を見ては、自らの左手にある何かを見ていた。

そうしてスッと立ち上がると、

「僕は用事があるのでこれで。」

なんて言って消えていく。

「はぁ?ちょっ、」

引き止めようとして手を伸ばすも、ぐらりと視界が歪んで、意識を手放した。

ふと目を覚ますといつもの天井が目に入る。

…ったく、あのヤブ天使が。

と勝手に去って行った天使様に心の中で毒づき、時計を見るともうすでに起きる時間だった。

さっさと準備をして家を出て、いつも通り静葉ちゃんと登校する。

いつも通りのはずなのに、葵ちゃんと話したあの日から、なんだか空気が重たくて、

気持ちもズンっと沈んでしまう。

そんな日々がしばらく続いたある日、転校してから約2ヶ月と1週間後。

夏休みを翌週に控えていて、その週の金曜日には終業式のある。

そんなある日、珍しく静葉ちゃんが休んでしまって、私は放課ずっと暇だった。

葵ちゃんや梨乃ちゃんが話しかけたりしてくれるし、他の子たちも話しかけてくれるけど、会話が続かない。

そのうち暇になってしまって、廊下に出てみてその辺をぶらぶらと歩いていた。

適当に学校探検でもしてみるかと階段を降りて別の階へ向かう。

その途中、踊り場の掲示板が気になってよそ見をしていると、バシッと肩に何か当たる。

誰かとぶつかったと分かるまでにそう時間はかからなかった。

バサバサッと音がして、ぶつかった相手の足元にプリントが落ちていた。

「ご、ごめんなさいっ。」

ぶつかった相手は慌てて謝ると、散らばったプリントを拾い始めた。

私もしゃがみ込み、プリント拾いを手伝う。