「でも、私、放課後は毎日静葉ちゃんと帰ってたのに、そんな素振りみたことないよ。」

にわかには信じられなかった。

転校してきてから、ずっと静葉ちゃんといるものの、イジメをしているような素振りなんてなかった。

そんな話、聞いたこともなかった。

葵ちゃんは少し考えた後、正直に答えてくれた。

「だって、放課後にイジメてたのは美澄ちゃんが転校してくる前日までだもの。

今でもたまに、梨乃がこのはに嫌がらせしに行ったりしてるけど…。」

「葵ちゃん、静葉ちゃんのこといろいろ知ってるんだね。」

タイミングを見計らってそんなことを言う私。

「うん、まあ、信用されてるし、信頼されてるし。」

葵ちゃんはさらっとそんなことを言った。

「私も、そのうち信頼されるようになる?」

「ううん、多分ならない。

静葉にとって美澄ちゃんは、お気に入りの人形と同じ存在。

人形を信頼したりはしないでしょ?」

私の質問にキッパリと答える葵ちゃんに、私は肩を落とした。

“お気に入りの人形”という、良いか悪いか分からない言葉。

私にとって、良くはない言葉。

ハァっと1つため息をつくと、向こうから梨乃ちゃんがやって来て、

「葵、やっぱりイジメのこと言った!

てか話しすぎ!行くよ!」

と葵ちゃんの腕を引っ張った。

仕方ないなという顔をした葵ちゃんは、最後に私の方を向いて、

「あとね、静葉が美澄ちゃんを信頼“できない”理由。

なんか微妙な距離感が怖いからってさ。」

そんなことを言って去って行った。

1人取り残された私は、必死に思考回路を巡らせ考える。

…信頼するって、どういうこと?

何でも話せる関係が、信頼し合える関係なのか。

秘密を打ち明けれればいいのか、頼れればいいのか。

私には、よく分からない。

私は、信頼を得ようと必死になっていた。

だから、嫌われたくはなくて、木村このはのことも本人には聞かずに葵ちゃんや陽翔くんに聞いた。

自分の本音は隠して、相手の本音ばかり探って。

もしかして、それがダメだったのか。

私が薄い壁を作っていたから、私が相手との微妙な距離感を保っていたから、

だから相手も、静葉ちゃんも、同じように壁を作って同じように距離感を保っていたのか。

それが、ダメなのか。

信頼を得ようと必死になって、相手に嫌われまいと回りくどいやり方をした時点で、ダメなのかもしれない。

信頼は、得ようとしたら負け?

ううん、違う。

得ようとしたっていいじゃない。

ただ、私のやり方がいけなかったのかもしれない。

考えて考えて、私は家へと帰りながら、これからどうするべきかを考えた。

生暖かい風が、頬をくすぐって、なんだかモヤモヤした。