「それじゃあ、私は先帰るね〜。」

放課後、大きく手を振る静葉ちゃんを見送った後、約束通り教室に残っていた。

葵ちゃんは私と目があったあと、荷物を持って歩き出す。

私も荷物を持って葵ちゃんの後を追った。

たどりついたのは、人通りのない渡り廊下だった。

「それじゃあ…。」

そう言い葵ちゃんが振り返った時だった。

ガシっと誰かが葵ちゃんの背後から、葵ちゃんの左腕を掴んだ。

ふわりと揺れる二つ結びの焦げ茶の髪。

葵ちゃんの背後から私を睨みつけるのは、間違いなく梨乃ちゃんだった。

「ねぇ、部活の見学じゃないの?」

冷たい視線を向ける梨乃ちゃんは、冷たい口調でそう言い放つ。

私はなんて誤魔化せばいいか分からず、梨乃ちゃんから目を逸らした。

「梨乃、先に部活に行ってて。

私、美澄ちゃんと話があるから。」

呆れた様子で言う葵ちゃんに、梨乃ちゃんは私を指差し怒鳴る。

「葵、アイツに余計なこと話しそうだもん!

静葉の立場が悪くなるようなこと!

だから…、」

梨乃ちゃんは、何か言いかけてやめた。

恐らく、葵ちゃんが梨乃ちゃんを睨んでいたから。

「梨乃。部活行っててよ。」

「…ごめんなさい。」

葵ちゃんに催促され、梨乃ちゃんは諦めたのかトボトボと体育館の方へと歩いていった。

2人の会話を聞く限り、梨乃ちゃんも葵ちゃんと同じくバスケ部なのだろう。

静葉ちゃんが部活に入ってなかったから、2人とも入ってないと勝手に思ってたけど、そんなことはないようだ。

私の方を向いた葵ちゃんは、ごめんねと呟いた後、

「それじゃあ、私から話させてもらうね?

昨日静葉が写真見られたって言って落ち込んでたし、大方その事でしょ?」

そう言いニコリと微笑んだ。

予想通り、昨日のこともこの2人には話しているようだ。

…信頼してるから…?


「えっと…、どっから話そ…。

元々、このはが1人だったところを静葉が話しかけたりして仲良くなったんだよね。

静葉も相当このはのこと気に入ってたの。

でも、大事な話は私や梨乃にしかしない。

今の美澄ちゃんと同じ立場かな、このはは。」

淡々とした口調で話していく葵ちゃんの言葉を、一語一句聞い漏らさぬように真剣に聞く。

「でも、原因は忘れちゃったけど、このはが静葉のこと怒らせてさ。

静葉とこのははそれっきり一緒にいなくなったんだよね。

それで…、」

だんだんと曇っていく葵ちゃんの表情。

葵ちゃんは下を向いて、また私を見て、



「…静葉、このはのことイジメてるの。」

衝撃的な一言を言い放った。

「え?」

思わず聞き返してしまうほど、予想外だった。

静葉ちゃんは確かにわがままで、木村このはがちょっとしたきっかけか何かで静葉ちゃんを怒らしたのは、

それ以来絶交してしまったのは、なんとなく理解できるけど、イジメなんて。

戸惑う私を無視して、葵ちゃんは話を続けた。

「イジメって言っても、放課後わざわざこのはを教室に残しといて、罵声を浴びせたり軽く殴ったり蹴ったり。

よくあるような、下駄箱の嫌がらせとかそんなのはなくて、放課後に数分、罵声か暴力、それだけ。」

イジメの内容は、予想よりも遥かに甘いけれど、イジメというより嫌がらせくらいのレベルかもしれないけど、

それだけでも、仮にも仲良かった人にやられるのだから、辛いだろうな、なんて考える。

嫌がらせくらいのレベルでも、静葉ちゃん側、主犯側にいる葵ちゃんがイジメと言うのだから、イジメなのだろう。