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「あーっやっと終わった!音、お昼買いに行こ!」

四時間目が終わるなり、紗菜が駆けてきた。

教科書を鞄に直しながら微笑む。

「行こ。今日は?」

「カレーパン!」

威勢良く答える幼馴染み、紗菜。

美人と呼ぶに相応しい綺麗な目鼻立ちで、かつ明るく人気者。
剣道やテニスや幅広いスポーツをこなし、まさに理想だ。

友達も多い。

校門を出てコンビニに向かう。
何ともユルい警備。

外出届を出すのが規則だが、そんなもの提出している方が無意味なほど。

「音?」

「あ、ごめん」

今日はどこかボーッとしていた。

昨日、母に言われた言葉が少し堪えたようだ。

『紗菜ちゃんは音の親友なのに、何かにつけて雲泥の差』

たかがことわざだったのに、泥という単語が刺さった。

もうどこにでも行ってしまいたい。

できれば昨日読んだ、新選組ものの逆ハーの世界へ。

逆ハーの中心になりたいな。

もう添え物だなんて言われることはなくなるだろうから。

「あーあ」

「どした音」

「なーんか幕末の新選組にトリップしたい」

「あはは、急に何それー」

紗菜が笑ったときだった。

気づいてしまった。
紗菜の後ろから、車が突っ込んでくるのを。

「紗菜っ!!」

突き飛ばした。

紗菜は生きなきゃいけない人だから。

私は、違う。

生きることに頓着してないし、それにもう居なくなってしまいたかった。

何も感じたくない。

家族だって友達だって、紗菜がいれば大丈夫だから。