勇者様と恋人宣言―アラサー勇者は恋がしたい―

「ああ、あんた。怒らない?」

「何を?」
イレーネは首を傾げる。

「怒らないで聞いてよ」

「だから、何を?」

「あのね。酔っぱらってね……広場の聖剣、抜いてきちゃった」
私は努めて明るく言った。

しかし、イレーネの顔はみるみるうちに歪んでいった。


「はぁ!? 広場のって、抜いたら勇者になっちゃう伝説の剣よね? なんで?」


「いやぁね、酒場で皆がね、誕生日だからって奢ってくれたのよ。
最初は普通に奢ってもらってたんだけどね。
最後はテキーラタワーとか、テキーラの返杯とか始まっちゃって、ついつい楽しくて……
気付いたら、聖剣抜いてた」


「いやいや、アンタ、ただの酔っ払いじゃん。
アラサーじゃなくて、アル中じゃん。
笑えないわ。
今まで道の看板壊したり、
壁にぶつかって前歯折ったり、
道で寝ていて病人と間違われて病院に運ばれたり、
一発芸とか言って魔法で井戸凍らせてみたり、
散々色々なことしてきたけど……」

イレーネは真っ青な顔で私の黒歴史をさらりと言う。


「そう、私、勇者になっちゃったの!」
私は満面の笑みで誤魔化した。


「アンタ、今日から命狙われるからね。
今の時代に勇者はいらないもの」
イレーネは頭を抱えた。